白内障
白内障は、加齢に伴い目の中のレンズ(水晶体)が濁ることにより、視力が低下する病気です。60代で70%、80代ではほぼ全員の方に白内障の症状がみられます。そのほか糖尿病、アトピー性皮膚炎、薬(ステロイド)の副作用、ぶどう膜炎など、病気で生じる白内障もあります。
白内障の症状
- かすんで見える
- まぶしい、明るいところで見えにくい
- ぼやけて二重・三重に見える
白内障の治療
日常生活に支障がない程度であれば、点眼薬を使用し、白内障の進行を遅らせる治療を行います。点眼は水晶体が濁るスピードを遅くするもので、症状を改善させたり視力を回復させたりすることは出来ません。白内障が進行すれば、眼鏡を合わせても視力が出にくくなります。仕事や運転に支障が出るほど視力が低下した、外がまぶしく感じて外出しづらいなど、日常生活に不自由を感じるようであれば、手術のタイミングです。
白内障の手術
白内障の手術では、濁った水晶体を超音波で砕いて取り出す手術(超音波水晶体乳化吸引術)を行います。当院ではわずかに2.4mm の切開で手術が可能です。手術は目薬の麻酔だけで5分~10分程度で終了しますので、日帰りでの手術が可能です。
眼内レンズの種類
(1)単焦点レンズ(保険適用)
60歳以上の方は、ほぼ全員老眼になっており、遠近自在にピントを合わせることが出来ません。
単焦点眼内レンズは保険診療で入れることができ、解像度も高くもっとも一般的なものです。しかし1か所だけにピントが合っているレンズですので、ピントを遠方に合わせれば手元が見えにくく、近方に合わせれば遠方が見えにくくなります。多くの方で術後に眼鏡を使用する必要があります。
(2)乱視矯正単焦点レンズ(保険適用)
乱視が大きい場合は、メガネ無しの視力(裸眼視力)が不良になります。
乱視があるとそれだけで見えにくくなるため、乱視矯正用の眼内レンズ(トーリック眼内レンズ)である程度の矯正を行う事が出来ます。
(3) 多焦点レンズ(遠近両用の眼内レンズ)(一部保険適用外・自費治療)
多焦点眼内レンズは遠く・中間・近くのうち2か所または3か所にピントがついているレンズであり、メガネ無しで生活できる可能性が非常に高まるレンズです。 眼鏡なしの便利な生活が望める一方、解像度としては単焦点レンズに劣ると言われています。
多焦点眼内レンズと単焦点眼内レンズの比較
(遠近両用眼内レンズ)
多焦点眼内レンズ | 単焦点眼内レンズ | |
---|---|---|
長所 | 多くの場面で、眼鏡なしで遠くも近くもみえる。 | 焦点のあった距離では、より鮮明にみえる。 |
短所 | やや見え方が不鮮明に感じることがある。夜間のライトがにじんでみえることがある。 | 遠方または近方視時に眼鏡が必要。 |
向いている方 | 解像度がやや劣ってもなるべく眼鏡をかけたくない方。仕事や趣味などのライフスタイル上、眼鏡なしで生活したい方。 | 眼鏡をかけてでも、より鮮明に見えることを望む方。 |
費用 | 一部、健康保険適用外 | 健康保険適用(安価) |
多焦点レンズの見え方
遠くの建物も、中間距離も、近くの看板も見える
単焦点レンズの見え方
遠くの建物は良く見えるが近くの看板はぼやけて見づらい(老眼が残る)
遠近両用眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)についてのアドバイス
白内障手術では、水晶体の中の濁りを取り除き「眼内レンズ」と呼ばれる人工のレンズを入れます。現在多くの方に用いられているのが単焦点レンズです。
単焦点レンズでは遠くにピントを合わせると手元が見えず老眼鏡が必要となり、手元にピントを合わせると、遠く用のメガネが必要となります。
そこで、遠くも近くも少しでもメガネなしで見たいという要望に対応しているのが遠近両用眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)です。多焦点眼内レンズでは、近くも遠くも焦点が合うように設計されており白内障手術に加えて老眼治療も可能です。
現在の60代~70代の方は活動的に趣味やお仕事をされている方が多く、裸眼視力(メガネ無しの視力)の向上には快適な生活を送るうえで大変有益な治療といえます。多焦点眼内レンズを使えば白内障手術と同時に老眼に対応し、メガネなしで見える範囲を広げることが可能です。
多焦点眼内レンズに向いている職業・ライフスタイルの例
仕事:農作業/理・美容師/漁師/学校・音楽教師/料理人 /接客業
趣味 :ゴルフ/温泉/旅行/スキューバダイビング
近くや遠くをこまめにみる必要がある、メガネがくもるなどの理由で仕事上メガネの使用が不快である、といったケースが多焦点眼内レンズに向いています。
多焦点眼内レンズの欠点
多焦点眼内レンズは遠くも近くも見える眼内レンズで、メガネなしで生活できる可能性が高まるレンズです。しかし、欠点もあります。
欠点1
単焦点眼内レンズと比べるとくっきり感が落ちると言われ、多焦点眼内レンズの見え方に慣れるまでに人によっては数か月かかる事もあります。
欠点2
乱視のある方では乱視矯正手術や乱視用の多焦点眼内レンズが必要になります。
欠点3
多焦点眼内レンズのグレア・ハロー現象
夜間に光が反射したりにじんで見えたりします。半年ほどすると慣れる方が多い様です。
当院採用の多焦点眼内レンズ
眼内レンズの種類
レンズ外観 | 名称 | 焦点 | 乱視矯正 | 近方の焦点距離 | 費用 |
---|---|---|---|---|---|
PanOptix パンオプティクス | 3焦点 | 有り | 40cm | 選定療養対応 | |
Tecnis Synergy テクニスシナジー | 2焦点+EDOF | 有り | ∞ 〜 35cm | 選定療養対応 | |
Lentis Comfort レンティスコンフォート | EDOF | 有り | 中間から遠方 | 保険適応 | |
PanOptix(パンオプティクス)
選定療養対応
国内初の承認を受けた3焦点眼内レンズです。現在、世界で最も普及している3焦点眼内レンズで、より自然に順応するように設計されています。
老視と乱視を同時に矯正できる白内障治療向け3重焦点眼内レンズ「AcrySof® IQ PanOptix® Trifocal トーリック」も選択可能です。
「手元」40cmと「中間距離」60cmと「遠く」の3焦点にピントが合うように設計されているメガネがほぼ不要の多焦点眼内レンズです。角膜乱視は約2.5Dまで矯正可能です。
利用可能な光を3方向に配分するので、EDOFレンズ(テクニスシナジー)に比べると、コントラスト(=くっきり感)の低下があります。
特徴
「手元」40cmと「中間距離」60cmと「遠く」の3焦点にピントが合うように設計されているメガネがほぼ不要の多焦点眼内レンズです。
構造 | 3焦点回折型 |
ピント | 3焦点 遠・中・近(1m~∞・60cm・40cm) |
ハロー・グレア | 軽度~中等度(やや少ない) |
乱視矯正 | 対応レンズ有 |
TECNIS synergy(テクニスシナジー)
選定療養対応
焦点拡張型+回折型を組み合わせたハイブリット型というレンズ設計で国内初承認となったレンズです。すでに欧州ではよく使用されているレンズであり、評価も高い眼内レンズになっています。近方から遠方にピントが合いやすいレンズです。手元を見る際は眼鏡が必要になることもあります。昼夜を問わず高い視機能が維持でき、低照度下においても鮮明な見え方でコントラスト感度が高い為、見え方の質が良いことも特徴です。
特徴
構造 | 回折型+焦点深度拡張型 |
ピント | ∞〜35cm |
ハロー・グレア | 軽度~中等度(やや少ない) |
乱視矯正 | 対応レンズ有 |
Lentis Comfort(レンティス コンフォート)
保険適応
この多焦点レンズは保険適応のレンズです。2020年11月から乱視用が追加されました。
単焦点レンズ適応の患者様に遠方から中間距離の快適な視力を提供します。
Dual Monofocal Design
異なる2つの単焦点機構で、+1.50Dのマイルドな加入度数を独自の扇型デザインで組み合わせることにより、快適な視力が期待されます。
良好な遠方・中間視力
+1.50Dのマイルドな加入度数により、単焦点レンズと比較して、良好な遠方・中間視力の獲得が期待されます。
※①+②で手術をすると遠方から近方までの視力が期待されます。
不快な自覚症状の抑制
術後のハロー・グレアは単焦点レンズと同等です。
中間用ゾーンを独自の扇型デザインにし、遠用から中間用ゾーンに移行する部分は一本のラインのみになるため、光学的なエネルギーロスを抑制しハロー・グレアの発現が少なくなります。
焦点深度の拡張
+1.50Dの加入度数により、単焦点レンズと比較して明視域の拡大による遠方から中間まで落ち込みのない見え方が得られます。
遠方~中間距離に適しているため、近方を見るには老眼鏡が必要になります。